秘密事項:同僚と勢いで結婚した
おしどり夫婦演じます
李side
「おしどり夫婦演じるからよろしく!!」
連休に入り、私の実家に穂高くんと行くことになった。
その移動中の車内で、『おしどり夫婦』などという言葉が出て来るなんて穂高くんは予想していなかっただろう。
この帰省での目的は、ものすごく仲が良いことをアピールして、順風満帆な夫婦生活を送っていると家族に伝えることだ。
穂高くんが私の実家に行くのは結婚の挨拶以来。
かなりの田舎にある私の実家は現住所から車で6時間、交通機関を使えば5時間と、遠くの地にあるため仕事の忙しさからそんなに頻繁に帰れない。
ちなみに今回の帰省は5ヶ月ぶり。
「契約結婚なんて意地でもバレちゃいけない…!」
「じゃあ、俺のこと、『穂高くん』じゃなくて『千智』って呼ばないとな」
「っ……それは…」
「練習練習〜。サービスエリアすぎるたびに呼んで?」
「………」
高速道路の上。早朝に出発して、ただいま目的地までの距離、半分くらいまで進んできたところ。
「お、きたきた。」
運転しながら楽しそうにサービスエリアを見つけて言うから、少しだけ腹立たしい。
(穂高くんのペースにハマってたまるか!)
なんていう意地が胸中で芽生え、私は躍起になって言う。
「ちさと!!」
「っ…はは!何その野太い声…!」
「〜〜〜っ…」
ケタケタと笑う穂高くんの横顔を見ると、グワッと恥ずかしさが襲って来る。次のサービスエリアでは『もっと自然に』と心に誓った。
だがしかしその後、変わらずに体育会系的な感じで『千智』と名前を呼び続け、やっとのところで慣れて来たと感じた時には高速道路を降りていた。