秘密事項:同僚と勢いで結婚した
同期会の会場はごく普通な居酒屋で、俺は下心なしに、ただ『まだ話せていないから』という理由で葉山の斜め前に座る。
「葉山さん、経理部だっけ?」
「うん!」
本当にたわいもない話。
そんな最中、葉山が俺に向けて話題を振った。
「穂高さんのこと、主任が褒めてたよ」
「えっ…」
まだ仕事を始めて数ヶ月。ちょうど上手く物事を進められない自分に落ち込んでいた時期だった。
「立ち振る舞いが素敵だって。声の調子も話し方も、人に好かれる雰囲気が素晴らしいって」
柔らかく笑顔で言うから、頬が紅潮してくる。それをお酒のせいだと自分の中で言い訳し、高鳴る胸を落ち着かせるように深呼吸をした。
「陰で褒められてるのって嬉しいな。」
「お世辞とかじゃないってわかるもんね」
主任にそんな話をさせる聞き上手なところ、葉山の長けている点だと思う。話しやすい空気を作るのが上手い。
(…葉山さんって経理より営業の方が向いてそう)
尊敬する。
最初はそのくらいだった。
この人から学びたい、真似したい。