秘密事項:同僚と勢いで結婚した



それから小一時間ほど過ぎ…。



お手洗いに行くと言い、席を外したっきり葉山は帰ってこなかった。


『化粧直しに時間がかかっている』
『トイレが混んでた』

さまざまな理由が脳裏をよぎるが、心配に感じた時、すでに俺は化粧室の方へと様子を見に足を運ばせていて。


(いやいや…。誰か女性に頼んだ方が絶対に良かっただろ…。女性のトイレ入れないのに)


考えなしに動く自分にバカらしくなって、引き返そうとした時、視界の隅に壁に寄りかかる葉山を見つけた。

俺と目を合わせると、葉山は罰の悪い顔をしていた覚えがある。


「っ…葉山さん…具合悪い?」

「ちがっ…あぁ…」

「もしかして酔いすぎた?」


顔色があまりよくない。冷や汗もかいていて、アルコール中毒を疑った俺は慌てて救急車を呼ぼうとスマホを取り出す。
それを葉山は制した。


「っ…穂高さん…!これ、女性特有のやつだから…!」

「………女性……特有…?」


あ、なるほど。

すぐに察すると、気恥ずかしくなって俺は葉山に問いかけた。


「酒飲んでるし薬飲めないよな…。んー……」

「水を差したくないから…言わないで…」

「もしかしてずっと…? 立食の時から?」

「………うん…」


気づかなかった。
顔色一切変えずに上司に話しかけて、同期とも仲良くなろうと奮闘して。

本当に凄い人だと思った。

< 53 / 137 >

この作品をシェア

pagetop