秘密事項:同僚と勢いで結婚した
それから小一時間ほど過ぎ…。
お手洗いに行くと言い、席を外したっきり葉山は帰ってこなかった。
『化粧直しに時間がかかっている』
『トイレが混んでた』
さまざまな理由が脳裏をよぎるが、心配に感じた時、すでに俺は化粧室の方へと様子を見に足を運ばせていて。
(いやいや…。誰か女性に頼んだ方が絶対に良かっただろ…。女性のトイレ入れないのに)
考えなしに動く自分にバカらしくなって、引き返そうとした時、視界の隅に壁に寄りかかる葉山を見つけた。
俺と目を合わせると、葉山は罰の悪い顔をしていた覚えがある。
「っ…葉山さん…具合悪い?」
「ちがっ…あぁ…」
「もしかして酔いすぎた?」
顔色があまりよくない。冷や汗もかいていて、アルコール中毒を疑った俺は慌てて救急車を呼ぼうとスマホを取り出す。
それを葉山は制した。
「っ…穂高さん…!これ、女性特有のやつだから…!」
「………女性……特有…?」
あ、なるほど。
すぐに察すると、気恥ずかしくなって俺は葉山に問いかけた。
「酒飲んでるし薬飲めないよな…。んー……」
「水を差したくないから…言わないで…」
「もしかしてずっと…? 立食の時から?」
「………うん…」
気づかなかった。
顔色一切変えずに上司に話しかけて、同期とも仲良くなろうと奮闘して。
本当に凄い人だと思った。