秘密事項:同僚と勢いで結婚した
李side
終業のチャイムが鳴り、穂高くんはすぐに経理部にやってきた。
「帰ろ。葉山。」
もう何年も前の高校の放課後を想起させるような声のトーンと言葉に、少しだけ胸がドキリとする。
「うん」
それから帰り道。
何処かに寄り道するわけでもなく、ただただ住んでいるマンションの方へと進んでいく。
2人して残業なしの定時上がり。これから日付が変わるまで、長い時間を一緒に過ごせる。
「葉山、今日の夜何食べたい?」
「ん〜…素麺」
「ふっ…はは! 誕生日なのに?」
穂高くんは笑顔を浮かべて私と話していた。
誕生日でも食べたい。今日は気温が高くてたくさん汗をかいた。とても熱いものが食べられるような体調ではない。
「百歩譲って冷やし中華」
「譲りすぎ。誕生日って贅沢するもんじゃない?」
(誕生日って知ってても『おめでとう』は言わないのか…!)
なんて思ってるあたり、少しは祝って欲しいなんて思ってるんだろうな。私。
でも今日という日を、穂高くんには祝って欲しくないなんていう矛盾していることを思ってしまう。
それには理由があった。
一年前の今日。28歳の私の誕生日に私は
「……李…?」
元カレ、峻に
「……峻…」
プロポーズされた日でもあるから。