秘密事項:同僚と勢いで結婚した
頭の中で葛藤の渦が巻き起こる。
「……俺と…」
再び言葉を相手が発すると、葉山は深く呼吸した後に一歩前へ出て言う。
「ほんと今更……。別にそんな申し訳なさそうな顔しないでよ。もう気にしてないから。」
「そっか…。じゃあ、もし李がよければ…また…」
苛立って仕方がない。
虫の良い自分勝手な相手の要望も、後ろめたさに覆われて動けない自分自身も。
一人息を呑んだ。
その時だった。
「『気にしてない』じゃないか。『もうどうでもいい』んだよね」
葉山が低い声でそう言う。それから…。
「私、ものすっごく素敵な旦那さんできたから不倫とか願い下げ」
下を向いていた俺は勢いよく顔を上げて妻のことを直視した。
(旦那…さん…)
その響きに舞い上がっている自分は本当に単純だと思う。
「………じゃあね、峻。お幸せに。」
単純だし、単細胞だし、葉山の掌の上で転がされてる感が否めない。
「………」
今すぐ抱きしめたい。
全部を自分のものにしたい。
世界中に、言いふらして自慢して…。
『この人が俺の奥さんです』なんて噛み締めて…。
(あぁ…これが愛しいってことなんだ…)
自分よりも小さな背中をたくましく思い、俺は無意識にポケットの中にある誕プレに触れた。