秘密事項:同僚と勢いで結婚した
夜空を仰いで
李side
穂高くんと私の噂は広まり続けている。
というのも先日、社食で穂高くんが親友の紀香こと、のっちゃんに向けて言った言葉を聞いていた人が多かったらしく…。
『俺、今必死になって葉山のこと口説いてる最中だから』
行くところ先々で『今はどんな感じ?』『営業部のやり手は恋愛もやり手っぽそうだな』と揶揄われる毎日だ。
(……穂高くんはなんとも思ってなさそう…)
長い付き合いだし、ずっと仲良くて。たくさん関わってきたのに心のうちは知らない。
私のこと好きじゃないのに結婚してて、会社では片想いしてますって公言して。
「……よくわかんない…」
「そこの仕訳のこと?」
「っ!穂高くん…!」
何故か経理部にいる営業部の穂高くんを私は二度見した。
「これ、出張先のお土産。経理部の人で食べて」
「ありがとうございます!」
後輩に向けて『お土産』という名の『差し入れ』を手渡すだけ手渡して、彼は再び私の近くへと歩いてくる。
「葉山、今日の夜って暇?」
私の予定がないことを知ってて訊いているから、穂高くんって結構石橋を叩いて渡るタイプだ。
「暇だけど、どうかした?」
周囲の視線を感じながら返答すると、穂高くんは本題を話し始める。
「一緒にご飯行こ。」
「うん…」
今日、経理部も営業部もノー残業デーだ。終わる時間は17時。それから晩ご飯に行くのは早いし…一回家に帰ってから2人で出かけるのだろうか。
(ってか、このやり取り、メールでいいんじゃ…?)
冷やかしとか別に気にしないと思っていたけど、周りからニヤニヤされながら仕事をするのは脳裏に穂高くんが居続けるみたいに意識してしまうから困った。