呼吸と鼓動
低血糖

悠貴side

診察室の中。




「お待たせ。今日はどうしました?」



予約の患者さんが優先だから最後。


問診票には震える字でなんとなく体調が悪いと。

定期検診でもないのに自分で病院に来るのは珍しい。




うつむき加減で呼吸数が多い。


「喘息の経過も気になるからとりあえず胸の音聞かせて」



聴診器を当てるため椅子ごと近づく。
ぼーっとしていて反応が鈍い。


「葵、聞こえてる?聴診するから服上げて」



次の瞬間、葵の身体からフッと力が抜けて身体が傾く。



咄嗟に両肩を掴んで倒れるのを阻止した。



「葵!わかる?しっかりして」

「/:@#*%~$」



何か言っているが聞き取れない。


あくびをしている。手は小刻みに震えている。


低血糖の兆候だ。もう自分で何か口から摂取できる状態ではないと判断。



「ブドウ糖40㎎準備して」



看護師に指示を飛ばす。

待っている間にベッドに移動し、袖を捲って駆血帯を巻く。



「葵、もう少し頑張って」



意識が消失しそうなのを声を掛けて必死で繋ぎ止める。




「ありがと。危ないから軽く腕抑えてて」





シリンジを刺して駆血帯を外す。

タイマーを90秒にセットしてゆっくり注射器のピストンを押す。



「んっ…!」


「痛いね。動かないで」


濃度が高いからかなり痛みが強いはず。



「…いたいっ」


投与し始めてすぐに意識が回復してきた。



「あと30秒頑張って。指先痺れてない?」


「…もうやめてっ」


痛いよね。普通の注射の数秒間でも痛いのに。


「もう少しだよ。いーち、にー、さーん、よーん…


…はい、終わり」



消毒綿で抑えながら注射針を抜く。


目に涙が滲んでいる。




「大丈夫?」


「うぅ…気持ち悪い」


「気持ち悪いか。吐きそう?」


「吐きそうではない…」


「ちょっと左手貸して

今から人差し指に針刺すね。パチンって音するよ」



指先を消毒して穿刺針を刺す。


「痛かった?」

「ちょっと痛かった」



機械に吸血させて結果が出るのを待つ。



「うん、まだちょっと低い」



自分の引き出しにあったクッキーを手渡す。



「食べれそうならこれ食べて」

「お昼ごはん食べた?」

「委員会の仕事で時間なかったから軽く食べたくらい」

「それだな。
低血糖になりやすい体質かもしれない。ちゃんと食べないとなりやすくなるから気をつけて。

一緒にごはん食べて帰ろうか」
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