呼吸と鼓動
怪我

悠貴side

「ただいまー」

仕事から帰ると葵が夕飯の準備をしてくれている。

ソファで読書をしてのんびり過ごしながら出来上がりを待つ。




「ゆう…き…」



突然キッチンから呼ばれる。



「どうしたー?」


「来て…」



キッチンの床に座り込んでいる葵。

わずかに指に血が滲んでいる。包丁で切ってしまったよう。




「はぁぁ…」


「びっくりして腰抜けちゃった?おいで」


両手を広げる。


膝立ちで近づいてきて抱きつく。



葵の反応が大袈裟でかわいい。

つい笑みがこぼれる。


「ねー、笑わないで!」



「ごめんごめん。だってかわいいんだもん。

傷は深くなさそうだから心配ないよ。
手洗ったらソファ行って手当てしよっか」


「よしよし、泣かなくていいよ」

「なんかわかんないけど溢れてきた」



半笑いで少し恥ずかしそうに手で涙を拭う葵。



救急箱を取り出して大きめの絆創膏を傷口に張る。


「はいOK」

「ありがとう」

「料理の続きは僕がやるから葵はソファで休んでて」



エプロンを着けてキッチンに立つ。


とりあえず残りの野菜も切ってお肉とフライパンに入れる。



「お水取り来た」

「喉乾いたの?言ってくれれば持って行ったのに」

「はい、どうぞ」




コップにウォーターサーバーの水を注いで調理台の端に置く。

コンロの火を点けようとした時。



パリンッ


コップの割れる音がしてそちらに目をやる。



「今日はどうした?大丈夫かw」

「ごめん、手が滑った」



しゃがんで床に散らばった破片を拾い集めようとする葵。



「素手で触ったら怪我するよ。あとで僕が片付けるからそのままにしといて。…ね?」



軽く手を掴んで静止する。

手が震えてる…。

口呼吸で肩で息をしている。
さっきは怪我したのがショックでドキドキしてるからだと思ったけどそうではないみたい。



「ごめんなさい…」


黙ってじっと見つめていたから僕が怒っていると勘違いしたよう。



「違う違う、怒ってないよ。そのままでいいから一回ソファ戻ろう。立てる?」



身体に触れると少し火照っていて額に汗が滲んでいる。



「低血糖になりかけてない?

さっきも手が震えてて手元狂ったんじゃない?」


「うん…、なんか思うように力が入らなかった」



冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して飲ませる。


「少し落ち着いた?」

「うん。ちょっと横になっててもいい?」

「いいよ」



出来上がった野菜炒めをテーブルに並べる。


「出来たけど食べれそう?」

「食べる」


テレビを観ながら話題を振るがどこか寂しげ。


「傷痛い?」

「そんなに痛くない」

「1~2週間もすれば治るからね」


終始テンション低めな葵。


「ごちそうさまでした。今週末は一緒に作ろうね」
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