呼吸と鼓動
事件

悠貴side

外は雨が降りしきる。


連絡が付かず心配になり家から駅の道のりを歩く。

気が急いてつい小走りになる。


日はすっかり落ちて街灯の灯りのみ。


地面に横たわっている葵の姿が目に入る。


走り去っていく男の影が見えた。




「葵!ねぇ葵!しっかりして!」


手首に触れる。冷たい。脈も速く弱い。


刺し傷を負っているよう。

スマホのライトで照らして傷口を探す。


「葵、わかる?悠貴だよ」

「ゆう…き」


意識はあるようだ。


すぐに救急車を要請する。必要事項を伝えて電話を切る。


「お腹ぎゅーって押すよ。痛いけどごめんね」


圧迫止血を施す。


「うっ…!ハァハァハァハァ…」


より一層呼吸が速くなる。


「ごめんね…」


ドクドクと血液が流れるのを手の平に感じる。


呼吸が早い。痛み、恐怖、様々な不安から来ているのかもしれないがこれだけ出血量が多いと出血性ショックを起こしている可能性も十分にある。


「怖かったね、もう大丈夫だよ」


意識が飛ばないように絶えず話しかける。



ピーポーピーポー



遠くからサイレンの音が聞こえてきた。


一緒に救急車に乗り込む。


「○○病院に搬送お願いします」


救急隊員と止血を替わる。


蛍光灯の下で鮮血で真っ赤に染まった自分の手と葵の服を目の当たりにしてショックで気が遠のきそうになる。

しっかりしなくては。

医療知識があるからこそ葵が今どれだけ危険な状態かわかってしまう。


手を握って声を掛け続ける。病院に向かうまでのたった数分がとても長かった。


到着する頃には葵の意識はないに等しかった。
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