呼吸と鼓動

大翔side

"葵と連絡が付かないんだけど何か知らない?"


スマホを開くと悠貴からのメッセージ。


何かあったのかと不安になる。

返信しても既読が付かず気になってしまって仕事の合間にチラチラ確認するがいつまで経っても未読のまま。



そんな時に受け入れ要請が入る。



"17歳女性。



受け入れお願いします"



なんだか不穏な予感がした。まさか。




「あとは任せて、悠貴はここで待ってて」


彼の胸の前に手のひらを当てて制止する。


「もう病院だよー!大丈夫だからねー!頑張ろうね」


意識はないに等しい。

脈拍は軽く120を越えている。呼吸数は30といったところだろうか。



「カルテ確認して輸血手配して。それまで輸液で繋ぐ」



「ちょっと眩しくなるよ」


ポケットからペンライトを取り出して瞳孔反射を見る。



「葵ちゃん服切るね」



微かに震えている。自律神経に支障をきたしているのだろうか。


真っ赤に染まったブラウス。



「血圧低下してます」


「アドレナリン投与して。


葵ちゃん頑張ろう」


エコーでお腹の中を診ていく。


「今通報から何分経ってる?」


「25分です」


「手術室の準備できたそうです」



緊急手術が行われることになった。外科に引き渡して悠貴に状況を説明しに行く。


待合の廊下に呆然と立ち尽くしている。



刺し傷が肝臓まで達していて出血量も多くかなり厳しい状態だった。


「すぐ止血したからあの深さにしては出血量は最小限に抑えられた。気温が低かったのも出血が少なく済んだ要因になったかも」


外科に引き渡した。手術が終わるまでこれ以上俺らに出来ることはない。


「大翔ごめん…ちょっと休みたい」


責任感の強い悠貴が自分からそう言ってくるのはよっぽどだろう。



「横になる?処置室の端のベッド使っていいよ」




悠貴の状態もあまり思わしくなかった。病み上がりの彼に無理はさせたくない。




「葵があんな状況なのに。情けない…」


「そんなことない。完璧な応急処置だったよ」


「ありがとう、ごめんちょっと肩貸して」


1人では立ち上がれない程ふらふらだった。


「脈が…飛ぶ…感じがする」


「ちょっと胸の音聞くね。楽に息してて」


確かに脈が不安定だ。


「走った、?」


普段から走るなと言い聞かせてきた。


「ごめん、少しだけ…」


申し訳なさそうに呟く。


「ちょっと疲れちゃったかもね」


精神的なものもあるかもしれない。


「1人にして大丈夫?」


「うん」


「葵ちゃんの手術が終わったら知らせに来るよ。今夜はこのフロアにいるからやばかったら近くの看護師に声掛けて」




目が赤い。泣いていたのだろうか。

動きたいのに身体が付いていかないのだからさぞかしもどかしいだろう。


「葵は…?」


「手術無事成功したって。ちょっと葵ちゃんの様子見て帰る?」


彼を連れてICUに向かう。


「面会時間外だから少しだけね。医者の特権」


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