夜色、線香花火


火がともされてからは、しゃべらなかった。慎太郎のほうを見ることもしなかった。


ただ、その火を見ていた。


そのぱちぱち音を聴いていた。


火の粉が跳ねている状態で落ちることはなく、燃え尽きてもなお、くっついていて。


嬉しくなって顔をあげながら、


「慎太郎!」


声を出すと。


「ん?」


目が合った。


……どういうこと。


頭の中でぐるぐるする。そんなあたしをよそに、


「名前。ちゃんと呼べるんじゃん」


なんて笑っていて。


ずるいよ、慎太郎。あと、いまはちょっと黙っていて。


慎太郎が普通にしていると、すべてが普通なように思えてくるから。

< 10 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop