夜色、線香花火
火がともされてからは、しゃべらなかった。慎太郎のほうを見ることもしなかった。
ただ、その火を見ていた。
そのぱちぱち音を聴いていた。
火の粉が跳ねている状態で落ちることはなく、燃え尽きてもなお、くっついていて。
嬉しくなって顔をあげながら、
「慎太郎!」
声を出すと。
「ん?」
目が合った。
……どういうこと。
頭の中でぐるぐるする。そんなあたしをよそに、
「名前。ちゃんと呼べるんじゃん」
なんて笑っていて。
ずるいよ、慎太郎。あと、いまはちょっと黙っていて。
慎太郎が普通にしていると、すべてが普通なように思えてくるから。