夜色、線香花火


「べつに遠くないから平気」

「おれが持って帰るよ」

「え、それはだめ。慎太郎も自転車でしょ?あたしのわがままで連れてきたわけだし、歩いて帰らせるわけには……」

「んじゃ、」


真っ暗闇、とまではいかないけれど。月明かりが反射した水面が、あたしたちを見てるけど。


ほどよく沈んだ色の中、慎太郎と目が合う。


「家まで送る」


バケツの持ち手を握る手に、力が篭もる。
花火を持ってくれている慎太郎が、あたしの言葉を待っている。


「シンタロ、帰るの遅くなっちゃうよ?」

「お前が暗闇の中無事に帰れたか、って、心配しながら風呂に入るよか、よっぽどいいだろ」

「……ん、ありがと」


慎太郎、優しいから。ときどきね、ひどいなと思うんだ。

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