夜色、線香花火
「てかさ、お前。火はどうするつもり?」
「……あ!」
忘れていた。できないじゃん。
頭を抱えていると、
「大天才、慎太郎だから。ほら」
「ライター!ありがとシンタロ!」
「ありがとシンタロで韻踏んだとか思ってないだろうな?」
それはどうだろうね。言いながら、ライターを受け取ろうとすると。
「待て、おれがつける。結実に渡すの怖いし」
慎太郎、過保護。
「……ん、いいの?」
「その代わり結実のほうを先につけるけどな、危ないから」
「うん」
カチ、と音が響く。波の音、慎太郎の呼吸の色、揺らめく炎。
いまだけ、時が止まってしまえばいい。