夜色、線香花火


「てかさ、お前。火はどうするつもり?」

「……あ!」


忘れていた。できないじゃん。


頭を抱えていると、


「大天才、慎太郎だから。ほら」

「ライター!ありがとシンタロ!」

「ありがとシンタロで韻踏んだとか思ってないだろうな?」


それはどうだろうね。言いながら、ライターを受け取ろうとすると。


「待て、おれがつける。結実に渡すの怖いし」


慎太郎、過保護。


「……ん、いいの?」

「その代わり結実のほうを先につけるけどな、危ないから」

「うん」

カチ、と音が響く。波の音、慎太郎の呼吸の色、揺らめく炎。


いまだけ、時が止まってしまえばいい。

< 9 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop