あの夏の隣で、ただ
やがて、廊下を通る人もいなくなったので、僕はトイレを出て「いつもの場所」へと向かう。
向かった先は、屋上へと続く階段。
屋上へと出る扉には鍵がかかっているが、その扉の手前に座っていれば、誰も来ることはないし、廊下からは死角になっていて誰にも見られない。
どうしても泣きたい時。辛いことがあった時。僕はいつも、一人でこの場所に向かっていた。
周りに誰もいないことを確認し、僕は階段を一段ずつ、そっと登り始める。
踊り場で向きを変えて、扉の方へ、上へと登ろうと、僕は顔を上げた。
その時────屋上への扉の前に、一人の人影を見つけた。
この学校の制服を来た、女子生徒が一人。
階段の1番上の段に腰掛けて、何やら本を読んでいる。
まずい。人がいる────
だが、僕が慌てて逃げようとするより先に、彼女と目が合ってしまう。
「きゃっ────誰!?」
その女子生徒が声を上げて、僕は驚いて、立ち止まってしまう。
「あ、あの、なんでもないです、すぐ帰りますんで、えっと……」
戸惑いながら一歩ずつ後ろに下がる僕の方に、「待って!」と声が飛んできた。
「……?」
「え、えっと……1年生、だよね?」
「そ、そうです……」
「ちょっと、来てくれる?」
女子生徒にそう言われ、僕は恐る恐る階段を登っていく。
間近で見る彼女は、とても同じ人間とは思えないほど綺麗で、可愛くて、明るく澄んだ目をしていた。
「あのね。私がここにいたことは、内緒にしてくれる?先生にも、他の子にもね」
扉にもたれかかって、何やら漫画を読んでいる彼女がそう言う。
彼女の付けている名札には、「Ⅰ A 柏木」と書かれていた。
僕と同じ、1年生のようだ。
僕が「うん」と答えると、彼女は「良かったー!君が良い人そうで安心したよー!」と、明るく透き通るような声で言った。