あの夏の隣で、ただ
翌日。
「おーい、地味メガネー」
「お前今暇か?どーせ暇だよな、帰宅部なんだし。はははっ」
帰りの回が終わるなり、「あの人たち」はまたやって来る。
「え、えっと、僕は今日は用事が……」
そう告げると、彼らの態度は一変する。
「何だよ、逃げる気か?あ?」
「どうせ大した用事じゃないくせに。帰ってゲームするとかだろ?」
「あ……あ……」
血相を変えて僕を睨みつける彼らを前に、返す言葉も見つからず戸惑っていたその時。
「ソーーーーウーーーーくーーーーんーーーー!おーまーたーせーーーー!!」
廊下の向こうから、パタパタという足音と共に、聞き覚えのある明るい声が大きく響く。
「柏木さん……!?」
「ソウくん!迎えにきたよ!さ、吹奏楽部の部室はあっちの別棟だよ!早く、見学来てよっ」
場違いなほどに弾んだ声を廊下いっぱいに響かせながら、“彼女”は僕たちの元へとやってくる。
「ねぇねぇ君たち!ここで何してるの?」
彼女は声色を変えずに、僕に迫ってきていたいじめっ子たちに笑顔で近寄る。
「げ、柏木!?」
「なんだよ、こいつと知り合いなのか?」
「仕方ねぇ、帰るか」
言葉にならない圧力のようにも感じられる彼女の笑顔を前に、いじめっ子たちは一人また一人と、その場を離れていった。
「た、助かった……?」
「ほらほら、あんな奴らには構ってないで、見学行こ、見学」
「あ、ありがとう、柏木さん……」
「こーら。柏木じゃなくて、舞。昨日言ったでしょ」
「そ、そうだった……舞、さん……それじゃ、部室に連れてって……」
完全に彼女のペースに引っ張られつつ、僕はそのまま吹奏楽部の部室へと向かうことになった。