あの夏の隣で、ただ
――運動部たちが準備体操をする掛け声に重なるように、ふぉーん、と何かの音がしている。
舞さんに案内されて向かった先は、別棟の2階にある音楽室。
ここが、吹奏楽部の活動の拠点らしい。
「よろしくお願いしまーす!」
彼女は音楽室の扉を開けるなり、部屋中にそう元気よく声を響き渡らせる。
「お、舞ちゃんお疲れー」
「あれ、その子は?」
「朝練の時に言ってた、見学の子?」
10人前後くらいだろうか。音楽室の中にいた女子生徒たちが、次々に振り向きながらこちらを見つめてくる。
「あっ、あの、えーっと」
沢山の女子から一気に視線を向けられて困惑していると、舞さんはすかさず俺の代わりに答える。
「そうそう、この子、吹部に興味あるから、今からでも入りたいって」
「いや、僕はまだ入るとは一言も……」
その時、僕の背後から、「あれ、何の騒ぎっすか」と、低く落ち着いた声が聞こえた。
「あ、山内くん!丁度いいところに!」
舞さんが声のする方に振り向くので、僕もそちらを見る。そこには、僕より少し背の高い、男子生徒の姿があった。
「この子は、今うちで唯一の男子部員なの。山内くん、良かったらこの新入りくんと仲良くしてくれない?」
「あぁ、朝言ってたやつか」
舞さんは完全に僕を吹奏楽部に入れる気でいるらしい。既に僕の扱いは「新入部員」になってしまっているようだ。頭を抱えていると、その男子部員は僕に歩み寄って話しかける。
「初めまして。俺は1年C組の山内 晃希(こうき)。トロンボーンやってるんだ。よろしくな」
僕よりもずっと大人っぽい声と佇まい。とても同じ1年生とは思えない風貌。まさしく「イケメン」、という言葉が似合う男だ。
「僕は、1年B組の松本 蒼汰。よ、よろしく……」
こんな僕と一緒にいて良いのだろうか。そんな僕の不安をかき消すように、彼と舞さんは優しく微笑んだのだった。