先生がいてくれるなら①【完】
数学準備室の扉には、【在室中】の札がかかっていて、その下に【許可を得てから入室すること】と書かれた紙が貼ってある。
悠斗が扉をコンコンとノックする。
「2年5組の数学係で~す」
「はい、どうぞ」
「失礼しまーす」
私は、繋がれたままの手が気になって「離して!」と小声で言って悠斗を睨んだが、こちらを見もせず、私のことを半ば引っ張るようにして数学準備室に入っていく。
部屋の一番奥に机があり、数学の藤野先生が椅子に腰掛けていた。
「……」
「教材、どれっすかー?」
藤野先生は一瞬無言の後、壁際にある長机の上の教材を指さす。
「……クラス毎に分けて置いてあるから、男子は問題集、女子はプリントを持って行って、昼休み中に配っておいて。今日の5限で使うから」
やっぱり手を繋いだままって言うのは、問題だと思う。
でも悠斗がギュッと握ってるから、離そうにも離せない。
先生は眼鏡と前髪で表情が読めなくて……でも変に思ってるよね、絶対。
こいつら、付き合ってんのか? とか思ってるかな。
声を大にして言いたい。
付き合ってません!!