先生がいてくれるなら①【完】
「悠斗、手、離して」
なるべく先生に聞こえないように小声でお願いする。
「仕方ないなぁ。明莉、また後で繋ごうなっ」
私の声とは対照的に、はっきりとした少し大きめの声で答えながらウィンクし、教材を手に取った。
「……じゃ、お疲れ様」
私と悠斗のやり取りに呆れたように、先生はクルリと椅子を回転させて机に向かい、今まで読んでいたと思われる書類の続きを読み始めた。
あーあ、これ絶対誤解されたな。
教師だから誰かに言いふらしたりはしないんだろうけど……気まずい事この上ないです……。
私は項垂れながら、数学準備室を後にした──。