先生がいてくれるなら①【完】
俺が立花の存在を初めて認識したのは、この公立高校に赴任してしばらくした、5月半ば頃の放課後だった。
一年前のことだから、当然、立花は一年生だ。
俺は、特別に学校から割り当ててもらった数学準備室の隣にある倉庫を“数学研究同好会”の部室として利用するべく、片付けをしていた。
部室の窓の向こうは、その当時テニスコートがあり、女子テニス部が使用していた。
三年生が練習しているコートの外で、一生懸命ボール拾いをしている一年生がいる。
一人だけやたらとやる気満々で、真剣な表情で拾い続けていた。
他の一年生はと言うと、友達としゃべりながら、たまに目の前に転がってきたボールを拾うだけだ。
その二者の温度差に少し呆れながらも、一生懸命な一年生から目が離せなかった。
倉庫の片付けをしながら、いつの間にかその一年生を目で追うのが日課になっていた。