先生がいてくれるなら①【完】

しばらくして、上級生からラケットの握り方や構え方、素振りなどを教えてもらい、何度もフォームを確認しながら練習している姿が、俺の目にはとても微笑ましく写った。


──微笑ましい……?



そう感じている自分に気づき、俺は唖然とした。


ここに来る前に二年間勤めていた私立高校で女子生徒に取り囲まれてさんざんな目に遭ったと言うのに、あいつらよりも更に年下の女子生徒に気を取られるとか——。


あり得ないから。



「……んな訳ねーじゃん。あほらし」




それからしばらくして二学期に入った頃、毎日練習を欠かさなかった彼女の姿が見えなくなった。


朝練も、放課後も、テニスコートには彼女の姿を見ることは無くなった。



「きっと練習がつらくなって辞めたんだろ。最近の子は根性ないな」



前の学校をたった二年で辞める事になり、この時の俺はまだ心がささくれ立っていたから、正直言って相手の都合なんか考える余裕もなかった。



今思えば、あれは楽しみを奪われた気分になってしまったのを、落胆した自分を、素直に認めるのが怖かったからだと思う。



あの一年生は誰だったのだろう──?



あの頃は二、三年生しか接点が無かったから、結局その年度が終わっても名前は分からないままだった。


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