先生がいてくれるなら①【完】
──心臓が、あり得ないほどの早さで鼓動し始める。
指先がどんどん冷えていくのが分かる。
「一緒にいた男、……あれ、誰?」
「──あ、……あのっ……」
「どう考えても、かなり年上だよな?」
悠斗の手に力が込められ、掴まれていた私の手首が少し痛む。
「あいつ、誰?」
「え、えっと……」
「言えないような関係?」
だめだ、藤野先生との事がバレたりしたら、絶対にダメだ……。
「う、……あ、の、……」
「そんな男と、手繋いで歩くような関係なんだ?」
「えっと……」
手を繋いでた、って事は、少なくとも昼食をとる前だろう。
混乱する頭で、なんとかあの時の状況を思い出そうとする。
「あの人は、その、お世話になってる人で──」
そう、嘘はついてない。
もし誰かにやむを得ず嘘をつくなら、その嘘は最小限の方が良いに決まってる。
あまり回転しない頭で、とにかく必死に抜け道を探る。