先生がいてくれるなら①【完】
夜勤のお母さんが出かける前に準備してくれた夕飯を食べ、いつもより少し早めにお風呂に入って一息ついた頃、スマホが鳴った。
「……はいっ」
先生とは滅多なことでは電話はしないので、私の声は少し緊張で上ずっている。
『いま、大丈夫?』
「はい、大丈夫ですっ」
『今日はお母さんは?』
「夜勤です」
『今からちょっとだけ出られるか?』
「はい、大丈夫です」
私は大急ぎで部屋着から着替え、戸締まりの確認をした。
先生は家の前に車を止めて待っていた。
私が車に乗り込むと、先生はゆっくりと車を走らせる。
「先生、すみません……」
「なんでお前が謝ってんの?」
「だ、だって……」
「三連休だったし、誰かに見られる可能性があることは想定の範囲内だよ」
「でも……」
「倉林に、なんて言われた?」
「……手を繋いで歩いてた人は誰か、って……」
「──それだけ?」
「えっと……」
私が少し言い淀むと、先生は車通りの少ない場所に車を止めて、私の顔を覗き込んだ。