先生がいてくれるなら①【完】
ほんとに……いつの間に私は先生のことがこんなに好きになってしまったんだろう?
どの瞬間にそうなってしまったのかと、どれだけ考えても全く思い出す事は出来なかった。
だけど、紛れもなく私は先生にすっかり心を奪われてしまったのだ。
ぼんやりと黒板を眺めていると、数式を書き終えた先生がゆっくり、長い前髪をふわりとさせながら振り返った。
さっきまでずっと下を向いていた私が顔を上げているのが目に入ったのだろう。
先生は多分、私の方に視線を向けている。
そして、あの綺麗なブルーグレーの瞳で私を見つめているんだ──。
そんな風に妄想してしまう事ぐらい、今だけは許して欲しい……。
先生は全く驚きもせず、何事も無かったようにそのまま授業を進めた。
教室はいつも通り先生の作り出す雰囲気で満たされている。
──あはは。
私は心の中で苦笑するしかなかった。
さすが、プロだね。
いつだってそのポーカーフェイスを崩さない。
そういう所も──大好きなんだけど。
結局、私はどんな先生も好きなんだ。
それを痛感して、またズキズキと胸が痛む。
私は再び俯いてノートに目を落とす。
この後からは、もう顔を上げる事は全く出来なかった。
今はまだ、先生を直視するのが辛すぎる。
──ノートは後で美夜ちゃんにでも見せて貰おう。
先生の声を心に刻み込むように、私は俯いたままじっと耳を澄ませて先生の授業を聞いていた──。