先生がいてくれるなら①【完】
泣かせたのは俺だ。
罪悪感が押し寄せる。
しばらく見守っていると少しは気が済んだのか、もう涙は流していなかった。
だけど俺が顔を覗き込むと、また目の縁から涙がこぼれ落ちる。
これは本格的に、俺のせいだな──。
目の縁の涙をそっと拭ってやり、頭をふわりと撫で、なるべく優しく立花の手を握った。
車内の時計が10時過ぎを示している。
いくら立花の母親が夜勤で留守とは言え、あまり遅く家に帰すわけにはいかない。
「──もう遅いから、帰ろうか」
握っていた手を撫でるようにゆっくりと離すと、立花は小さく頷いた。
エンジンを掛けてゆっくりと車を発進させる。
手を握っている間には止まっていた涙が、また溢れてきたようだった。
家のすぐ前に車をつけて、シートベルトを外す立花に「何かあったらいつでも相談にのるから」と言うと、なぜか立花は首を横に振った。
普段なら何か言ってやる所だが──こう言う態度を取らせたのは俺だ。
何も言えるはずがない。
「じゃあ……また明日。おやすみ」
「……おやすみなさい」
立花の、聞き取れるかどうかギリギリの、小さな声……。
後悔と罪悪感がない交ぜになり、立花が玄関の向こうに消えたのを確認して、俺は車を発進させると同時に大きな溜め息を一つ吐いた。