先生がいてくれるなら①【完】
* * * * *
その翌日の授業では、明らかに泣き腫らした寝不足の目で、俯いたまま全く顔を上げる様子のない立花が座っていた。
俺も正直言って全く眠れなかったけど、眼鏡と前髪のお陰で隠せている。
心の中で大きな溜め息を何度も吐きながら、いつも通りを心がけて授業を進めた。
授業を進めるのに、私情は絶対に挟まない。
それが俺の仕事に対するポリシーだ。
数式を黒板に書き終えて振り返ると、さっきまで俯いたままだった立花が顔を上げていた。
すぐに下を向くんだろうと油断してたら今度はじっと前を向いたまま動かないので、つい目線を立花に合わせてしまった。
正直ちゃんといつも通りの授業出来てるかどうか、全く自信が無い──。
平常心、平常心……。
しかし、平常心でなどいられるはずは無い──
しばらくすると立花は再び下を向いてしまった。
その後は、立花はこの授業中に顔を上げる事は無かった──。