先生がいてくれるなら①【完】
高校二年生になった4月、始業式の次の日の朝のこと。
朝からしとしとと雨が降っている。
昨日の晴天が嘘みたいだ。
いつもは親友の美夜(みや)ちゃんと学校の最寄り駅で待ち合わせているが、今日は寝坊したらしい。
【ごめーん、いま起きた! ギリギリになりそうだから、先に行ってて!】
と言うメッセージが来ていた。
普段はテニス部の朝練がある美夜ちゃん。
今日は雨のため朝練は中止。
きっと気が緩んで二度寝しちゃったに違いない。
ほとんどの運動部が朝練は中止のようで、通学路には同じ学校の人はまだ誰も歩いていない。
ひとりで歩くと、なぜだかいつもとは少し風景が違って見える。
傘に付いた雨粒も、雨粒が自身の重みに耐えられなくなってポロリポロリと傘のふちから滴り落ちるのも。
「綺麗……」
雨粒が傘にあたる音さえも、とても大事なものに感じて──。
正門をくぐり、昇降口の前で自分の周囲に誰もいない事を確認して。
──傘をゆっくりと、くるりと回した。
傘に付いた雨粒が自分の周りをキラキラ光りながら、少し勢いを付けてひゅんっ、と飛んでいく。
幼稚園ぐらいの頃は、よくやったな。
お母さんには「人の迷惑になるから、傘は回しちゃ駄目よ」って、言われたっけ。
傘を畳んで、私は校舎へと入っていった──。