先生がいてくれるなら①【完】
「──このクラスの数学係は、誰?」
数学係に後で教材を取りに来て貰わなければいけないのを、くだらない質問で忘れるところだった。
元気よく返事をした男子が、隣に座る女子の手を取って高く掲げる。
……しかも、なぜか指を絡めて手を繋ぎ直すとか、なんだコイツら。
そう言えばこの男子生徒──見た事あるな。
あぁ、確か校内でも色んな意味で有名なヤツだ。
こんなヤツが数学係か、更に面倒が増えた気がする……。
と、脳内で悪態をつきながら隣の女子生徒を見る。
──、は?
今朝の、あの元テニス部の女子生徒だと、このとき初めて気がついた。
俺が副担任を受け持つクラスだったのか……。
……ってか、コイツらこんな教室で、クラス全員の前──しかも教師の前で堂々とイチャイチャするとか、頭おかしいんじゃないの?
こみ上げるよく分からない怒りに、俺は眼鏡の奥で二人を睨んだ。
「……数学係は、昼休みに数学準備室に追加の教材を取りに来るように」
辛うじてそれだけを口にして、俺はムカムカしながら教室を後にした──。