先生がいてくれるなら①【完】
しかし、あくびも眠気も、どこにも行ってくれそうにない。
よろけながら鞄のポケットに入れている部室の鍵を探す。
「……よろけてるよ?」
声の主は、隣の部屋から出て来たジキル博士──じゃなかった、藤野先生だ。
「あー、はい……寝不足で……」
寝ぼけているせいか、なかなか鍵が見つからない。
すると、突然先生に手首を掴まれ、数学準備室に引っ張り込まれた。
「わっ。な、何するんですかぁっ!?」
しかし先生は答えず、私を近くの椅子に座らせる。
コーヒーの芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
「これ飲んで」
先生が長机に特製コーヒーを置いた。
良い香り。
「──いただきます」
はぁ。美味しい。
香りまで美味しい。
幸せ──。