先生がいてくれるなら①【完】
病室でお兄ちゃんと話をしていると、しばらくして光貴先生が病室に迎えに来てくれた。
光貴先生とお兄ちゃんは初対面では無いらしく、どうやら光貴先生がお兄ちゃんの体調を気にしてくれていて、何度か勤務時間外に様子を見に来てくれていたらしい。
「藤野先生、妹がご迷惑をおかけして、すみません」
「いいえ、大丈夫ですよ。何も迷惑なんかじゃないですから、気にしないで下さいね。じゃ、お家まで送ってきます」
「はい、ありがとうございます。宜しくお願いします」
私はお兄ちゃんに「また来るね」と言って、光貴先生と病室を後にした。
夜間出入り口から病院の建物を出ると、私たちのすぐそばで一台の車が停車する。
「お迎えが来ましたよ」
そう言う光貴先生の声に、私は身を硬直させた。
光貴先生の言う “お迎え” は、確実にお兄さんの孝哉先生の事を示しているから──。
でも私たちの隣に止まった車は、いつも孝哉先生が乗っている車では無かった。
いつもはSUV車で……いまここに止まっているのはコンパクトカーだ。
じゃあ孝哉先生じゃないのかな、なんて思っていると。
光貴先生が運転席の人に向かって「お疲れ様。運転交代するから」と言うと、少し間を空けて運転席から男性が降りてきた。
「──孝哉先生……」
運転席から降りてきたのは “学校帰りの藤野先生” だった。