先生がいてくれるなら①【完】
うっ。車内の空気が、重い……。
「あ、あの……」
私の問いかけに「はい何でしょう?」と返事をしてくれたのは、光貴先生だった。
「えっと……」
聞きにくい……。
いつも孝哉先生が乗ってる車と違う、とか、そんなどうでも良さそうな事、聞きにくすぎる……。
私が話を続けられずにいると光貴先生が「この車はね、僕の車なんですよー」とクスッと笑って言った。
──えっと、兄弟そろってエスパーなのかな?
「普段は乗ってる暇が無いから兄さんに通勤に使ってもらってて。全然乗らないとバッテリーがあがっちゃいますからねぇ」
「あぁ、なる、ほど、……」
「それに、今は良いカモフラージュにもなってて、ちょうど良いよね?」
はて? カモフラージュとは??
「んー、教師が生徒を個人的に送り迎えしてるとか、学校や周りにバレたら、ね……?」
光貴先生はバックミラー越しに私をチラリと見て、目が合ってしまった私は慌てて俯いた。
「学校への通勤だったらこっちの方が小回りもきいて便利でしょ?『藤野先生らしい』からちょうど良いし」
私の家への道案内以外では終始無言で助手席に座っていた孝哉先生が、明らかに不満そうに大きなため息をつく。
怒ってる──これは、かなりめちゃくちゃ相当怒ってる時の孝哉先生だ……。