先生がいてくれるなら①【完】
「でも。この手は離そうね?」
私が悠斗の手を抓ると、悠斗は「あいててて!」と一瞬手を離したが、また私の腰にスルッと手を回した。
「もう、離してってば~」
「でもさ、こうしてると、誰も寄ってこないからさぁ」
それは確かにそうだった。
ビラ配りの時は悠斗から直接チラシを受け取りたい女子たちが周りを取り囲んだけど、それ以外はみんなヒソヒソと声を潜めながら様子を伺うだけで、誰も寄って来なかった。
私にとってこんな所を一番見られたくない人──藤野先生はどうせ今日の午前中は準備室と部室から一歩も動かないだろうし……。
「う~ん、もう、仕方ないなぁ。じゃあ今だけだよ?」
「やったー! 明莉大好き~」
そうして私は午前中いっぱい悠斗と一緒に、ときどき「2年5組にも遊びに来てね~」と勧誘もしつつ、模擬店まわりを楽しんだ。