先生がいてくれるなら①【完】
「孝哉先生は隣の準備室にいると思います。お呼びしましょうか?」
「あ、いいよ。ごめんね、そんなに時間無くて。この後すぐ病院に戻らなきゃいけないから」
「そうなんですか、お忙しいんですね」
「研修医なんて、ただの使いっ走りですからねぇ」
光貴先生はそう言って笑いながら、数研の発表内容に目を通している。
光貴先生も頭が良いから、こう言うの、おもしろいんだろうな。
私には正直言って、みんなのを模造紙に清書したけどさっぱり分からなかった。
呪文か? とか思って書いてた、なんてこの兄弟には口が裂けても言えない。
「へぇ、それぞれの好きな公式とかについてまとめてるんだ。良いね」
「はぁ」
「立花さんは、文系?」
「ですねー」
「ふふっ、じゃあ、兄さんに無理矢理入部させられたんだ」
「あはは……」
「そっか。でも、楽しいんじゃない?」
光貴先生が私の方に振り返って意味ありげに微笑む。
「さぁ、どうでしょう……楽しいような、そうでないような……」
私は曖昧な返事をした。