先生がいてくれるなら①【完】
文化祭実行委員会の委員長がその前で挨拶をして、文化祭の成功のお礼を述べている。
花火師さんに合図を送り、点火へのカウントダウンが始まった。
5、4、3、2、1、……
派手な音と共に、明るい光が放たれた。
あちこちから歓声が上がる。
「──綺麗だったな」
大きな音が途切れた瞬間、突然聞こえた、あの人の声──。
「……えっ、先生?」
いつの間にそこに来たたのか、私の隣には、藤野先生が立っていた。
「一瞬だったのが残念だな」
「……はい」
後夜祭が始まる前に先生がいないか校庭を見回したけど、どうしても見つけられなかったのに。
藤野先生は文化祭とか好きそうじゃないから準備室に帰っちゃったかな、と思ってたし。
「お前、誰かと一緒に見るんじゃなかったの?」
私にだけ聞こえるような小さめの声。
心臓が、急に激しく動き出す。
「……いえ、別に」
「──ふぅん?」
「……それに、去年も美夜ちゃんと一緒に見たから、私たち相思相愛なんです」
出来るだけ冷静を装って私が笑うと、先生は「ばーか」と言って私の頭にポンと手を乗せて、去って行った。
花火の火薬の煙の臭いが風に乗って校庭を包み込んでいる。
誰が言い出したか分からないうさん臭い逸話も、この瞬間だけは信じられる気がした──。