先生がいてくれるなら①【完】
カウントダウンが始まる。
みんなが仕掛け花火に注目する中、俺はそっと立花の横に移動し、その時を待つ。
大きな音と共に仕掛け花火が明るく光り、火薬の煙が辺り一面に広がった。
「──綺麗だったな」
そう声を掛けると、驚いた表情でこちらを振り仰いだ。
最も後ろにいたけどあまり人に気付かれたくなくて、立花にだけ聞こえる声で「お前、誰かと一緒にみるんじゃなかったの?」と聞いた。
誰か、とはもちろん、倉林の事でなければ良いのだが……と思って口にした言葉だ。
しかし立花は、隣にいる滝川美夜と相思相愛だから、などと可愛い事を言い出したので俺は思わず緩みそうになる頬をキュッと引き締めて、立花の頭にポンと手を乗せてその場を離れた。
誰が言い出したか分からないうさん臭い逸話も、この瞬間だけは信じていたい、そう思った──。