先生がいてくれるなら①【完】
ある日の放課後。
職員室で頼まれた雑用を処理していると、どのクラスも授業が終わったのか、校舎内がザワザワと少し騒がしくなってきた。
教頭に頼まれていた資料を渡し、数学準備室に戻ろうと職員室を後にする。
特別教室棟でも放課後の掃除が始まっており、普段は静かな廊下にも今は数人の生徒が往来していた。
掃除のために開け放たれた窓の外は春らしい風が吹いていて、中庭の木々が揺れる葉音が耳に心地良い。
掃除の喧噪から逃れようと、俺は教室棟と特別教室A棟の間にある中庭に出てベンチに腰掛けた。
ふと2階にある社会科教室に視線を移すと、そこでも掃除が始まっていて開いた窓から一人の女子生徒が見える。
見たところ他の生徒は見えない。
特別教室はどの部屋も広く、普通のクラス教室の倍の大きさがある。
一週間に使う回数はそう多くないのであまり汚れないとは思うけど、あの広さを一人で掃除するのはなかなか時間がかかる事だろう。
確か掃除の班は一班6人だったはずだ。
他の5人はサボりか……。
しかも社会科教室と言うことは──俺が副担任として受け持っている2年5組の担当のはず。
チラチラと見え隠れするその女子生徒は、数学係の立花だった。