先生がいてくれるなら①【完】
病院を出る頃にはもうすっかり夕方になっていた。
夏の日暮れは遅くまだまだ明るいが、私にはそれが眩しすぎて──。
お兄ちゃんがこの世からいなくなってしまったと言う実感はぜんぜん沸かなかった。
またお見舞いに行ったら「明莉、また来てくれたの?」って笑いかけてくれそうな気がして。
「勉強教えてあげようか?」って、言ってくれそうな気がして。
さっきまで握っていたお兄ちゃんの手の温もり、
まだ私の手の中で、消えていない。
私の手を握り返してくれるお兄ちゃんの手は、もう無い。
その事が、私の中ではまだ現実として受け入れられそうになかった──。
その日、やっぱり梅雨明けが宣言された。
お兄ちゃんが、梅雨を連れて行ったように思えた────