先生がいてくれるなら①【完】
「えっと、あの、……すみません、私、あなたがどなたか存じ上げないのですが……」
私が恐る恐る男性にそう言うと、車は赤信号でゆっくりと停車した。
「あぁ、なるほど。知らない男の車に乗ってしまった、と」
男は私の方に顔を向け、ニヤリと笑った。
「……っ」
車はちょうど、赤信号で停止している。これは、車から降りた方が良いのかも?
──なんて、逡巡していると。
「おまえ、……バカ?」
「っ、はぁ!?」
えっ、ちょっと待って、よりによって、バカって!
そりゃ、あんな状況だったからとは言え、誰か確かめもしないで車に乗っちゃったのは私だけど。
バカって!!
「……そっか、分かんないか。じゃあ、こうしたら分かるかな」
そう言って、きちんとセットされていた髪をグシャグシャと崩して、ジャケットから眼鏡を取り出してかけて見せた。