先生がいてくれるなら①【完】
目の前には、俺が自分自身を取り戻すきっかけのひとつとなった砂浜と海が広がっている。
少し湿度の高い南風が海の上を吹き渡って、立花の髪を優しく揺らした。
立花が波に誘われて、ついっと波打ち際に近づく。
俺は「足首までだけだぞ」と言って、立花の手をゆっくりと離した。
嬉しそうな顔で俺に微笑みかけてからおもむろにサンダルを脱ぎ、それを指に引っかけてブラブラと揺らしながら、波打ち際を少し遠巻きに歩いて行く。
時折大きめの波が立花の白くて綺麗な素足を掠め、そのたびに俺に向かって嬉しそうに微笑みかけた。
──お前さぁ、それ、計算じゃないよな?
俺、胸が苦しすぎて、死にそうなんだけど……。
そんな俺の心の声が聞こえるはずも無く、立花は「気持ちいいですよ~」なんて暢気に波と戯れている。