先生がいてくれるなら①【完】
「ありがと、兄さん。助かった」
「今日も帰れないのか?」
「まぁね。研修医なんて “研修” とは名ばかりで、ただの雑用係だからね」
俺は弟が研修医をしている大学病院に、弟の着替えを持って来ていた。
研修医は本当に多忙らしく、弟とはマンションで隣同士の部屋に住んでいるが、彼はその部屋には滅多に帰って来ない。
もちろん帰ろうと思えば帰れるのかも知れないが、仕事を頼まれればイヤとは言えない性分らしく、結局帰れない日が続く。
「あんまり無理すんなよ。いつか倒れるぞ」
「分かってる。大丈夫だよ。無理そうだったら奥の手を出すから」
奥の手──。
まぁ、コイツの場合はそれがあるか。
俺もそれが分かってるから、こうやって手を貸している部分もある。
「兄さんこそ、公立高校は忙しいんでしょ。無理しないでね。ちゃんと食べてる?」
「……まあな」
どっちの質問に答えたのか、と言う顔をする弟に「じゃあな」と言って病院のロビーを後にした。