先生がいてくれるなら①【完】
病院駐車場から出ようと車をゆっくり走らせていると、うちの高校の制服を着た女子の後ろ姿が見える。
どこかで見覚えが、と思い、すぐにそれがあの数学係だと思い出す。
立花、か──?
「5組の立花じゃないのか?」
すぐ横に停車して助手席側の窓を下げ、そう声を掛けた。
驚いてこちらを覗き込んだ顔。間違いない。
だが、立花は俺だと全く気づかない様子だ。
あぁ、それはそうか。
今の俺は、あの学校の全生徒、なんなら全教員が見ても俺だと気づかないだろう。
普段はボサボサの頭と長い前髪に眼鏡で顔を隠してるが、今は前髪を上げて眼鏡もしていない。
服装だって、まぁ病院に行くのにあのヨレヨレの服では清潔感がなさ過ぎるから、今はきちんとした服装をしている。
これで誰か分かれと言う方が無理があるだろう。
わざとそうしてるのだから、仕方がないのだが。