先生がいてくれるなら①【完】
「なぁ~、そろそろさぁ、俺のこと下の名前で呼んで欲しいんだけど」
倉林君が唐突にそう言った。
「え? なんで?」
「えーっ、だって、俺らもう付き合いも長いじゃん?」
「ごめん、意味分かんない」
「ひでえ! いいじゃん! 減るもんじゃなし!」
「今更な気がするんだけど……」
倉林君とは去年も同じクラスで、私の中では唯一仲の良い男子だ。
しかしいくら仲が良いと言っても、もう一年間も名字で呼んで来たのに急に下の名前で呼ぶって、いくらなんでも、なんか気恥ずかしい。
「俺もさ、お前のこと、明莉って呼ぶから」
「……私の名前は、まぁ、いいけど……」
「うっしゃー! じゃあ早速……」
そう言って、倉林君は私の肩を抱き寄せて、耳元で「明莉……」と囁いた。
「……っ!!!」
ちょっ、ちょっと待って!
下の名前で呼んで良いとは言ったけど、耳元で囁けとは一言も言ってない!
「な、ななな、何をっ……!!!」
焦って真っ赤になる私を見て、肩を抱き寄せたままクスクスと笑う倉林君。