先生がいてくれるなら①【完】
「さてと。私も掃除しに行きますか」
上履きに履き替え、特別教室A棟1階の一番奥にある部室へ向かう。
朝の、まだほとんど誰も居ない校舎は気持ちが良くて好き。
4月のまだ少しだけ冷たさの残る春風が中庭の木々を爽やかに揺らしたり、朝の光をレースのように地面に落としている様子を見ながら廊下を歩く。
この時間は私にとって、至福の時間だ。
放課後の誰もいない廊下とは違う、朝だけの、穏やかな安息の時間。
今朝は、いつも歩いている教室棟の廊下から見ていたのとは違う景色だ。
藤野先生に数研の部室の掃除を言いつけられなければ見る事のなかった、この朝の風景。
これから毎朝この景色を見る事になるんだな、と少し不思議な気分になる。
昨日から預かっている部室の鍵を鞄から取り出し、鍵を開けて中に入る。
念のためにマスクをして窓を全開にし、まずはハタキをかけるところから始めた。
思ったよりも埃が舞う。
マスクを持ってきていて、本当に良かった。
箒で床を掃き、雑巾で机や窓の桟を拭き……とりあえず一通りの掃除を終えた。
「まだ気になるところはあるけど、追々やっていきますか」