先生がいてくれるなら①【完】

「ねぇ、早く言って。言わないと離さないから」

喋るたびに耳に息がふわりとかかり、どうすればいいのか分からない、何とも落ち着かない感覚に襲われる。


私は観念して、小さな声で「ゆうと」と口にした。


「もっかい。ちゃんと聞こえるように言って」


「……悠斗」

私はとにかくこの状況から早く脱したい一心で、名前を口にした。

「う〜ん、明莉~~~」


抱き締めた腕にギュッと力が込められ、悠斗は私の頬にチュッとキスをした。


……えっ!?

「っっっ! ちょっ、ゆ、悠斗っ!?」


脱するどころか、悪化するとは……。

「ねぇっ、離してっ……! こ、こんなところ誰かに見られたら……」


悠斗の腕から逃れようともがくけど、ちっとも力を緩めてくれない。

それどころか、更にギューッと密着して悠斗の身体に完全に包み込まれ、私は呼吸が苦しくなる。


「俺は別に誰かに見られてもいいけど?」

「だ、駄目だよ! それに、教科係の仕事しに来たんだから!」


そう言うと、悠斗は少しだけ腕を緩めて私の顔を覗き込み——今度はおでこにキスをした。

「……っ! ゆ、悠斗っ!!」

「……明莉、顔、真っ赤だね」

悠斗が嬉しそうに笑う。

「も、もうっ! やめてってば!」


私は悠斗の腕からなんとか抜け出して、数学準備室へと逃げるように急いだ。

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