Lunatic
「今日はいつもの場所が使われてて、あの体育倉庫に行くことになった。そして、いつも通り服を脱いだら、もっと深く刺してみてもいい?って聞かれたの。どんな痛みが味わえるのかって、考えただけでゾクゾクした」


そう話す咲は、怒っているようにも見える。


「だから許可してみたのはいいんだけど……先生は胸にナイフを向けてきた」


咲は胸に当てた手を握りしめる。


「……殺されるかと思ったわ」


今まで楽しそうに話していたが、急に声色が変わった。
瀬畑たちはさっきまでとは違う恐怖を感じる。


「でも、先生だって殺人犯にはなりたくないだろうから、そんなはずはない……そう、言い聞かせたわ。そして目を閉じて痛みを待っていたら、誰かに間違ってるって言われたような気がして」


血がついた手を見つめる。


「……気がついたら、先生にナイフが刺さっていた」


みな、咲にかける言葉を探した。


君は悪くない。
正当防衛だ。
抵抗して、たまたま胸に刺さってしまっただけだ。


それを言おうと口を開いたが、誰も声が出なかった。


咲が、また気味の悪い笑顔を浮かべていたからだ。


「自分が傷付けられて、痛みを味わうのもよかったけど、誰かを傷付ける感覚も、なかなかのものだった」


足の裏に接着剤でもついているのではと思うほど、足が動かない。
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