Lunatic
そんな咲を見て、瀬畑も小河も、千葉も野田も教頭も固まってしまった。
それは、咲の笑顔に見惚れたから、ではない。


咲の笑顔があまりに狂気に満ちていたからだ。


「まさか、本当に笹崎さんが……?」


小河が恐る恐る確認すると、静かに笑顔が消える。


「ええ、私がこの手で」


咲の背中に隠されていた右手があらわになる。
手のひらについたらしい宮村の血液を洗い落とすまでに時間が経ち、乾いてしまったのか、赤く染まっている。


全員、言葉を失った。
まるで刑事や探偵のように推理していた瀬畑でさえ、頭が追いついていなかった。


「ああ、でも」


咲はそう言いながら上着を脱ぎ、ブラウスの袖を捲る。


「先に刃物を向けてきたのは先生のほうなのよ?」


そこには、見るに堪えないほどの傷跡があった。


小河と千葉は目を背ける。


「それ、宮村が?」
「ええ」


左腕をそっと指でなぞる咲は、微笑んでいる。


「ゴールデンウィーク明けてすぐだったかしら。先生に人のいない場所に呼び出されたわ。そして、下着姿にならないと殺すって脅されたの」


その表情には怯えなど混ざっていない。
むしろ、楽しそうに笑っている。


「私は先生の指示に従って、制服を脱いだわ。それなのに、先生は私の肩にナイフをあてた」
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