記憶シュレッダー
ワシはゴクリと唾を飲み込んでシュレッダーを見つめた。


見れば見るほど魅力的に見えてくる。


気がつけば、喉から手が出るほど欲しくなってしまっていた。


店主はタダでいいと言っているし、それに甘えない手はなかった。


ワシはその日のうちにシュレッダーを持って帰ることにしたのだ。


シュレッダーはワシの大切なものが置かれている書斎に置いた。


あの子供の声が聞こえてきたこともあって、窓際の日のあたる場所を選ぶ。


「さぁ、今日からここがお前の家だぞ」


シュレッダーへ向けて話しかけ、自分で笑う。


書斎の机に座って一息つくと、机の上に置いている写真に視線を向けた。


半年前に友人と魚釣りへ出かけた時の写真だ。


普段、仕事以外ではそれほど外出しないワシを気にかけて、友人が誘ってくれたのだ。


久しぶりに感じる潮の香りは新鮮だったし、波の音も今でも鮮明に思い出すことができる。


でも、その五ヵ月後、つまり一か月前になる。


ワシを釣りに誘ってくれた友人が亡くなってしまったのだ。
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