記憶シュレッダー
☆☆☆

その数日後、職場の田中さんが不思議そうな表情を浮かべてワシに話かけてきた。


「大川さん、ずいぶん元気そうだけど、もう立ち直ったの？」


彼女からの質問にワシは首をかしげた。


「立ち直った？　なにから？」


「なにからって、友達が亡くなられたんでしょう？」


田中さんの言葉にワシはキョトンとした表情をして、それから大声で笑い始めた。


「人違いじゃないか？　友達はみんな元気だよ」


ワシの反応を見て田中さんは怪訝そうな顔になる。


「なに言ってるの。魚釣りに誘ってくれる友達が、海で亡くなったでしょう？　あれ、全国ニュースにもなったのに」


「釣りに連れて行ってくれる友達？」


ワシは首をかしげた。


ワシにはそんな友達はいない。


確かに、そういうニュースを聞いた記憶はあるけれど、ワシの友人ではなかった。


田中さんはきっと、記憶違いをしているのだろう。


ワシはそう思って、仕事に戻ったのだった。
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