記憶シュレッダー
伯母さんの姿を認めてから、あたしはお祖父ちゃんが倒れたことを誰にも連絡していないことに気がついた。


混乱していて、救急車を呼ぶことで精いっぱいだったのだ。


「お隣さんが教えてくれたの。家に救急車が来てたみたいだって」


伯母さんは息を切らしてあたしの横に座った。


「きっと大丈夫よ。すぐに良くなるから」


伯母さんはそう言い、あたしの手を握り締めた。


それでもあたしの震えは止まらない。


手術の時間があまりにも長く、沈黙は重たく、呼吸すら止まってしまいそうだった。


そんな地獄のような時間が過ぎていき、ようやく赤いランプが消えた。


あたしは咄嗟に立ちあがり、出てきた医師にすがりついた。


まさか、自分がこんなことをする日が来るなんて思っていなかった。


ドラマや映画の世界だけだと思っていた。


「ひとまず峠は超えました。ですが、このまましばらくは入院してもらうことになります」


あたしは担当医の話を聞きながら、隣に立つ伯母さんの手を強く握りしめていた。


そうしないと、今にも倒れてしまいそうだったから。
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