記憶シュレッダー
『そんなことまでしていない』と感じるということは、それ以外のことはしてきたということ……?


フィルターに掛けられていた記憶が、強引に引っ張りだされるような気がした。


「大丈夫、心配なんていらない。あたしはなにもしてないんだから!」


あたしは声を出して自分自身に言い聞かせ、ダンボールを一気に引っ張りだした。


その瞬間、異臭がブワッとあふれ出す。


あたしは慌てて飛びずさった。


ダンボールの中からはまがまがしい雰囲気が漂っていて、声にならない声が溢れ出ているように感じられた。


中身がなんなのか確認する前から、それがこの世の悪で満ち溢れているものだと、わかってしまった。


一瞬、このままダンボールを押入れの中へ戻してしまおうかと考えた。


なにも見ていない。


なにも知らない。


そうして、また忘れて生きていこうかと思った。


でも、もうそれはできない。


できないところまで来てしまった。
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