記憶シュレッダー
あたしは浩太をリビングへ通すと、コーヒーを淹れた。


お祖父ちゃんのように上手にはいかないけれど、ここ数日嗅いでいなかった匂いがキッチンに広がって安堵する。


「はい、おまたせ」


「ありがとう。敦子ってブラックで飲めるんだっけ?」


淹れたてのコーヒーをそのまま口に運ぶあたしへ向けて浩太が聞く。


「うん。お祖父ちゃんの影響でね」


浩太はミルクや砂糖を沢山入れている。


「子供はコーヒー飲んじゃいけないんだぞ」


その言葉にあたしはつい噴き出していた。


いつの時代だったか、そう言って子供にはコーヒーの飲ませない人がいたらしい。


今では子供用のコーヒーが発売されているくらいだ。


「よかった。元気出たみたいだな」


あたしの笑顔を見て浩太がホッとしたように言う。


「うん……。まさか浩太が来てくれるとは思わなかったけどね」


「だろうな。今日はたまたまクラブが早く終わって、それで来てみたんだ」


「そうだったんだ」
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